Translation Management System(TMS:翻訳管理システム)とは?④


ここまで3回に渡って、「TMSとは?」を説明しました。
続いては「これまで手動(メールベース)で翻訳業務をハンドリングして来たが、それで生じていた問題点とTMSでどのように解決できるか」についてお話したいと思います。

手動で翻訳業務をハンドリングする際の問題点とTMSによる解決策

ケース1:翻訳者・チェッカーへの依頼時の待ち時間が減る/なくなる

<従来のやり方>

担当するプロジェクトマネージャー(PM)が、翻訳者Aさんへ打診→断られる→翻訳者Bさんへ打診→返事がなかなか返ってこないので待つ→散々待った挙句に断られる→翻訳者Cさんへ打診→ようやく受けてもらえる→続いてチェッカーAさんへ打診→断られる→チェッカーBさんへ打診→断れられる→チェッカーCさんへ打診→返事がなかなか返ってこないので待つ→結局断られる→チェッカーDさんへ打診→ようやく受けてもらえる→改めてアサインされた翻訳者さんに作業用のファイルをメール添付で送って作業開始

<TMS導入後>

担当するPMが、翻訳者Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの5人に同じ依頼内容で一斉に打診→翻訳者Bさんがいち早く受けてくれた→他の4名の方に自動でお断りの連絡がシステムから送られる→同様に複数のチェッカーさんに依頼を送っておく→翻訳者、チェッカーが受諾してくれたら、事前に設定しておいたワークフローに沿って自動で案件が進んでいく

<ポイント>

納期に余裕のある案件であれば時間を掛けて翻訳者・チェッカーをアサインすることが出来るのですが、短納期で余裕のない時に限って翻訳者・チェッカーがなかなかアサイン出来ない、というのは本当にあるあるです。
時間が掛かれば焦りも出てきますし、なかなか担当が決まらないことでストレスマックスです。
これまでの経験上、4~5人に一斉に打診してどなたも引き付けてくださらなかったことはないです。

また、事前にワークフローを設定しておくことで誰かが案件を受けてくれれば、自動的に業務が開始されていくことも利点です。
どなたかが引き受けてくれるまで待つ必要もないですし、改めて作業用のファイルをお送りする必要もないのです。


ケース2:ファイルのやり取りのためだけに、時間を作る必要がなくなる

<従来のやり方>

急ぎの案件で、金曜日入稿で月曜日の朝一に納品が必要→どうしても翻訳者・チェッカーの方に週末に作業をしてもらう必要がある→金曜日中に翻訳してもらって、土曜日にいったん担当PMがファイルを受け取ってチェッカーの方に送って作業してもらわないといけない→土曜日の朝一にファイルをチェッカーに送ろうと思ったけど、翻訳者からまだ翻訳済みファイルが上がってこない→結局、土曜日の昼に翻訳済みファイルが届き、それをチェッカーに送りなおした→本当は土曜日の朝から出かける予定だったのに…

<TMS導入後>

事前にワークフローを設定しておき、翻訳者・チェッカーをアサインしておけばプロジェクトは自動で進んでいくため、PMがわざわざファイルの受け渡しをする必要はない。
金曜日のうちにワークフローをスタートさせれば、翻訳者の作業が終わり次第次のチェッカーに自動でファイルが送られ、チェッカーの作業が完了したら作業済みのファイルがPMのもとへ納品されることになる

<ポイント>

フリーランスの翻訳者・チェッカーの方は週末稼働してくださることはよくありますが、サラリーマンであるPMがファイルの受け渡しだけのために休日出勤をすることは決して褒められることではありません。
ファイルの受け渡しにかかる時間が15分程度かもしれませんが、逆に言えばそのためだけに貴重な休日を無駄に使うことになります。
「働き方改革」が叫ばれている昨今、ツールやシステムを導入することで、こういった無駄な働き方を改善せねばなりません。


ケース3:スケジュール管理

<従来のやり方>

メールベースでの案件手配では、PMが独自に管理表なるものを用意しなければならない。
案件名、言語セット、ボリューム、ファイル形式、分野、アサインした翻訳者やチェッカーの情報、納期、などなどを自分でExcelなどに入力して、プロジェクト管理をする。
手動でやるので、入力漏れ、コピペミス、納期のリマインド忘れが起こってしまう可能性があった。

<TMS導入後>

プロジェクト登録時に入力したデータをそのままPMのプロジェクト管理の情報として使用できます。
改めて入力し直す必要がないので、入力漏れ、コピペミスなどのエラーの可能性が低くなります。
また、ワークフローで納期を設定する際に、翻訳者・チェッカーの納期を設定しておくと、
システムが決まった時間にリマインドメールを送ってくれます。
こちらもシステムがやってくれるので送り漏れはありません。

<ポイント>

複数案件を抱えている中で、すべての案件を手動で管理したり、タイムリーにリマインドメールを送るなんてほぼ不可能です。
結果的に翻訳者さんやチェッカーさんの納期割れが起こってしまい、再発防止策として「リマインドメールをしっかりと送るようにする」など考えますが、やはり人力で対応するには限界があります。

システムで出来ることはシステムにお任せして、PMの方はその労力を別のことに向けるべきです。
そうすることで、これまでより多くの案件に対応することが可能になりますし、納期割れ事故の発生を減らすことが出来ます。


ケース4:担当PMが急に休みを取ることになった場合

<従来のやり方>

担当PMのAさんが急病になってしまって、入院することになった。
お客様から案件の質問が来ているのだけど、誰か知ってる人はいる?

Aさんはccに他の人を入れてくれないから、お客様とのやり取りが見えなくて、
​​​​​​​納期の情報が分からないし、翻訳者やチェッカーも誰にアサインしているのか分からない。
仕方ないからメールアカウントに入って、過去の履歴を探っていくしかない。

<TMS導入後>

MSのシステムを通じて翻訳者やチェッカーにアサインし、ファイルもシステム上で送られるので、システム上で該当する案件を探して確認することで、必要な情報をすぐに得ることが出来ます。

<ポイント>

考えたくはありませんが、我々は人間なのでいつ何時休むか予測できません。
ご自身の病気、ケガ、不慮の事故、電車の遅延、ご家族の病気など。

各PMがバックアップ含めてメールでのやり取りをしていてくれればなんとか追えるのですが、中には翻訳を依頼する際のやり取りに他のメンバーをいれないでやってしまう方もいます。(特にベテランの方に多い傾向があります)

そういった本人不在の時に限ってお客様から進捗の問い合わせが来たりするのはもはや「あるある」で、情報を探っていくことに恐ろしく時間と労力がかかってしまいます。
それがTMSを導入していて、システム上で手配を行っていれば、すべてのプロセスが可視化されるので、進捗状況の確認を他のメンバーがすることが容易になります。


ケース5:担当者が夏季休暇など長期休暇を取る場合

<従来のやり方>

案件の進め方は担当PMしか分からないので、長期休暇に入る際には、一時的に別の担当者に引継ぎをしなければならない。
分かりやすいように資料をまとめて、打ち合わせをして引継ぎをするが、資料作成にも打ち合わせにも時間がかってしまう。

<TMS導入後>

担当PMがお休みに入る前にワークフローを作成しておいて、翻訳者やチェッカーのアサインも済ませていれば、他のメンバーはソースファイルが支給されたら翻訳用ファイルを作成して、システムにアップしてワークフローをスタートするだけでプロジェクトは流れていくことになる。

<ポイント>

多くの場合、案件のハンドリングは人依存になってしまっていて、長期休暇の際の案件の引継ぎに相当の時間と労力がかかってしまいます。
しかし、TMSで案件を回していけばそこまで時間と労力をかけることなく、既存の案件を別のメンバーで対応することが可能になります。


今回はTMSを導入することで解決できる例をご紹介しました。
メールベースかつ人依存でプロジェクトをハンドリングしていくには限界があります。

様々なツールが日々開発されており、そういった最新のテクノロジーを使わないという選択肢はあり得ませんし、いち早く導入していくことが競争を勝ち抜いていく要因にもなります。
常にアンテナを立てておいて、有効なツールを使っていくことが大切なのだと思います。
 
次回は「導入の際の考え方」です。






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